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病めるときも レビュー [本 レビュー]

 
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本書は6つの短編で構成されており、愛と信仰をテーマとした作者の性質上のためか、ほとんどか恋愛に関する内容でした。ただの娯楽性の高い恋愛小説に終わらない点がこの作者の良いところであります。(本書も例外ではありません)

ではいつもどおり紹介していきたく存じます。その適当さ、おおざっぱなところもいつも通りです(笑)

六つの短編と申しました。
『井戸』
『足』
『羽音』
『奈落の声』
『どす黝き流れの中より』
『病めるときも』

―つーつにちょっとしたコメントを入れつつ、紹介していきます。

まずは『井戸』
主人公は、加代に夫がいながらも3人もの恋人をつくり、しかも目の前でその浮気の様子を見せつけられ、憤慨する。それなのに、家庭は実に幸せ、子供からも慕われ、夫とも仲がよい。不思議な加代たちに呆れつつも驚く。
加代は
「何のかんのと言っても、男と女なんて肉体的に満足すれば良いんだもの」と言います。
恐らくこの作品では、肉体的満足のみに執着することで、自他を傷つけていることにさえ気づけていない罪深さについて描かれているのでありましょう。



『足』
これは実に印象的な作品でありました。
主人公は脊椎カリエスを患い、ギプスペットに臥ており、寝返りも打てない、首も動かせないという状態で、食事をするにも部屋の様子をみるのにも、隣の患者と話すのにも、手鏡を使わなけれはならない。つまり、作者自身の体験を元にしているのかと存じます。
病室を共にする少女が、結核で10にもならぬうちから学校にも通えず、両親には捨てられ、病院での生活を続けていたのでありました。そのため性に関する知識も、外のこともなにもわからない状態で成長してしまったのです。この少女のセリフのーつーつが表面上は陽気であるものの、なんというか寂寞に満ちていると言いますか、とにかく淋しいのです。
たとえば「だってね。霧子は魔法つかいにおまじないをかけられたから、大きくなれないんだって、うちのおかあさんがいったの」

やがて成長するにつれ、病院から抜け出し、どこぞの男と逢瀬を続けるようになる。
その男というのが、同し病院に入院する、かつての教師だったのです。彼はそうした知識に疎い彼女を翻弄し、主人公は幾度も幾度も忠告しましたが、霧子はすっかり夢中になっちゃって、逢瀬を続けるのです。
「この足か悪いんだ」と彼女は足のせいにし、それでも諦められないのでした。
この作品では人間のよわさ、人間に潜む魔の存在、制御できない誘惑といった、嘆きの声が表現されておりました。


『羽音』
とくに良かったと思ったのがこの作品かと存じます。 陳腐な恋愛小説とは違って、しっかりとした、確乎たるテーマがあります。言葉のひとつひとつが迫ってくるようで、楽しめました。

「わたくしは、とにかく一人の女性をおしのけ、不幸に陥れてまで幸福になりたいとは思いません。それとも課長さんは、そんな女性がお好きなのでしょうか。もし、そんな女性がお好きなあなたなら、わたくしは、そんなお方は嫌いです。」

妻子ある課長に恋をしてしまった女性がそう言って会社を辞めるのです。

「とにかく、わたくしはこれ以上、課長さんに近づいてはならないと思っています。今のうちなら、わたくしは去っていくことが出来るでしょう。たとえ、どんなに悲しくても、淋しくても」
なんと立派で勇気ある決断でしょうか。なんとつつましやかで聡明な女性でしょうか。


『奈落の声』
ひねくれものの父親をもつ主人公と心優しい先生のお話です。父親は誰にでもけんか腰で、真樹子先生にもイチイチ難癖をつける、腹立たしい役柄です。
母親に家出された少年の孤独と悲しみが序盤で描かれておりますが、それ故に真樹子先生への厚い信頼が芽生えたのかと。
だからこそ、最後に父親と対立した真樹子先生のセリフに酷い衝撃を受け、傷ついてしまったのでしょう。自分を温かく見守ってくれる母親が欲しいという、求めがそこにはありました。
「生意気でけっこう。あなたみたいなやくざに育てられたら、どんな事件でも起こしたくなるわ。泥棒だって人殺しだって。」
少年はこの「泥棒、人殺し」という先生の言葉についには絶望したのでした。


『どす黝き流れの中より』
文章がいきなり告白体になります。それだけでデカダン臭を感じる私は、耽美文学の読み過ぎでしょうか。内容も退廃的だから、チガウかな?
金と情欲に狂った人間の醜い話です。それにしても、嫂と浮気した夫を、それでも尚ずっと密かに愛し続けてきた津由子があんな結末になり可愛そうでなりませんでした。

『病めるときも』
結婚式で牧師に聞かれた「病めるときも健やかなるときも汝、夫を愛せるか」
神のまえで主人公は、誓ったのであります。愛すると。
病気の夫も、健康な夫も変わらずに愛し続けることの難しさ、でもそれが当然だという真理。結婚をただの形式的な誓いとは捉えずに、人間と人間との強い精神的な結びつきであると、作者にはそう言う考えが深く根付いておりまして、どんな目にあっても、どんなことがあっても、夫婦というのはそう簡単に離れてはならないものだという作者の強い訴えを感じました。
 
病めるときも (角川文庫)

病めるときも (角川文庫)

  • 作者: 三浦 綾子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/05/25
  • メディア: 文庫
 

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