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弱い者をいじめるべし  不道徳教育講座 三島由紀夫著 [本 レビュー]

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またも登場する「不道徳教育講座」(私の座右の書です)

「弱い者をいじめるべし」の項から抜粋。久々に読んで笑ってしまった。
以下本文より(割愛あり)

強者の弱者に対する態度は、生物界には一つしかないのです。それが「弱肉強食」であり、もっと上品な言い方をすれば「弱い者いじめ」であります。

諸君の友達に一人、自殺志望者がいるとします。彼が或る日、青い顔をして、フラリと君をたずねて来ます。

  「何だ。また自殺の話か。」

('A`)「そうなんだ。僕はもうこの過酷な生に耐えられない。

  「バカヤロウ。死ぬなら早く死んでしまえ」

('A`)「そう簡単に死ねればこんなに悩まないんだが」

  「死んじまえ。死んじまえ。何なら、僕の前で毒でも呑んでみないか。僕はまだ、服毒自殺って言うのを、見たことないから、ここで一杯やりながら、ゆっくり見物するよ」

('A`)「君なんかに僕の気持ちはわからんよ」
  
  「わからん奴のところへどうして来るんだ」

そのうちに君は、こいつが、ひたすらいじめてもらいたくて、君のところへ姿を現すのに気が付きます。そこで頬桁の一つもパンと張ってやって、

  「貴様みたいな閑人と付き合うヒマはねえや。出てゆけ。もう二度と来るな。」
と追い出してやります。でも大丈夫。死ぬ死ぬというやつで、本当に死ぬのはめったにいない。彼は命拾いをし、君は弱い者いじめの楽しみを味わい、両方の得になる。
 しかし、こういう場面になるとわれわれはなかなか颯爽とは行かず、下手に同情して相手の自惚れを刺激し、己惚れた挙げ句に彼は本当に自殺し、君は後味のわるい思いをするという、両方の損になる場合が多い。

 しじゅうメソメソしている男がある。しょっちゅう失恋して、またその愚痴をほうぼうへふりまき、何となく伏し目がちで、何かといえばキザなセリフを吐き、冗談を言っても何処か陰気で、「僕はどうも気が弱くて」とすぐ同情を惹きたがり、自分をダメな人間と思っているくせに妙な女々しいプライドを持ち悲しい映画を見ればすぐ泣き、昔の悲しい思い出話を何度も繰り返し、ヤキモチやきのくせに善意の権化みたいに振る舞い、いじらしいほど世話好きで・・・
こういうタイプの弱い男は、一人は必ず、諸君の周辺にいるでしょう。こういう男をいじめるのこそ、人生最大の楽しみの一つです。

  「ヘン、また失恋しやがった。いい気味だ。」

('A`)「そんなにいじめるなよ」

  「何だ。その釦穴にくっつけてる鼻糞みたいなものは」

('A`)「彼女が去年くれたスミレの花だよ」

  「バカバカしい。そんなもの捨てちまえ。胸くそのわるい。」

と君はそのスミレの花をむしりとって、地べたに投げ捨てて、ツバを引っかけてやる。

('A`)「アッ、何をするんだ」

  「口惜しかったら俺を殴ってこい。」

('A`)「なぐるなんてそんな。君が友情で、そんなことをしたのが、僕にはわかっているんだもの。僕を思い出から自由にしようと思って、花を踏んづけてくれたんだな。ありがとう。」

  「何を、このバカヤロー。ふざけたことを言うな。」

いじめているのに、友情などと誤解されては迷惑至極ですから、君は即座に拳を固めて彼を殴ります。

('A`)「アッ、いたた」

  「もう一つポカリ」

('A`)「アッ、いたた。・・・(泣きながら)でもありがとう。」

  「なぐられてお礼を言う奴があるか、阿呆」

('A`)「いや、僕にはわかるんだよ。君の友情の鉄拳が。 僕をキッパリ立ち直らせようと思って、心では泣きながら、僕を殴ってくれたんだな。その気持ちわかるんだよ。僕も何とか立ち直らなくちゃいけないと思うんだけど」

君はもうすっかりムシャクシャして、気持ちが悪くなるが、弱い者いじめの快感には替えられない。しかし、もう殴っても無駄ですから、今度は言葉でいじめます。

 「お前みたいなヒョーロク玉は、何度女に惚れたって、フラれるのが関の山だよ。鏡でも見て良く研究しろよ。しょっちゅう泣きっ面をして、カラッとした顔をしていたためしがない。せめて金でもあればいいが、安月給で昼飯はラーメンばっかり喰ってるくせに。それに何だい、インテリ面して、読めもしないくせに、原書なんか抱えて歩いて。週刊誌のほうがよっぽど気がきいてらァ。お前みたいな人間のカスは、早くガス管でもくわえてお陀仏したほうが世のため人のためだよ」

('A`)「でもねえ。それほど言われても、まだあきらめられないところを見ると、あれは本当の恋だったんだねえ。」

 皆さん、この勝負はどちらの勝ちでしょうか。
 
不道徳教育講座 (角川文庫)

不道徳教育講座 (角川文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1967/11
  • メディア: 文庫


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