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残酷なまでの強制労働 蟹工船・党生活者 レビュー [本 レビュー]

本日紹介する本は「蟹工船・党生活者」です。
映画化もされ、かなり有名な作品で、日本のプロレタリア文学を代表する作品でもあります。作家の小林多喜二さんは、母親思いのとてもすばらしい人格の持ち主でしたが、この小説を書いて警察に拷問され、殺されました。かわいそうで仕方ありません。強制的に働かせる時代、少しの反抗も許されなかったのでしょう・・・。

蟹工船は、強制的に働かされ、人権を無視され、命を命として認められていない労働者達の様子が描かれております。労働者達はもはやウジ虫扱い。死ぬまで働かせる。死ねば少しの慈悲もなしに死体を海に捨てる。これが実話だと言うのですから驚きです。読むこちらが痛くなるほどの衝撃を受けます。

人間は上に立ち、人を雇えば神様にでもなったつもりになるのでしょうか。労働者のおかげで商売が成り立っているというのに、その人権を無視する姿勢。本来なら大切に扱うべき労働者たちをあまりに残酷な形で働かせる。

利益さえ生まれれば、労働者の一人や二人死んでも構わない、搾取できる分には徹底的に搾取してやる!そういう残酷な表情が、腹立たしいほど露骨にブルジョア階級から窺えました。
ありえません。非人間的で非倫理的。労働者達は、船上であるために逃げ場がなく。経営者はコスト削減の為に劣悪な状況で労働者を酷使、管理職は自分の立場を守るために成績を上げなくてはならない。そのために人権をも認めない。

こういう厳しい時代があったことを、我々はもっと知っておくべきだと思いました。

こちらの本、クセのある文体で、おまけに難しいので勇気を出して買ってください(笑)内容もグロテスクですし。


蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

  • 作者: 小林 多喜二
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1954/06/30
  • メディア: ペーパーバック

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思考の整理学と奇跡の教室から。学校側が頑張りすぎることによる勉強意欲の減衰。 [本 レビュー]

本日紹介する本は
「思考の整理学」と
「奇跡の教室」です。前にも紹介したことがあったような気がしますがもう一度改めて。
いっしょに紹介する理由は、学校における教え方の問題点に関する記述がどちらも類似しているためです。
憤慨していることはどちらも同じで、例えば、今の学校は先生がなんでもかんでも親切に教えすぎて生徒に考えさせる隙すら与えていないということが、とくに思考の整理学では強く書かれていました。論語読みの論語しらず、つまり知識はあっても自力では行動ができない生徒が多いのだと


例えば、教科書を読むだけの授業。(私の経験上非常に多くある。コアでも。)先生が読むにしても、先生が生徒に読ませるにしても押しつけ感が強い上に、考えることがなにもない。ただ流すだけの単調作業でなにも印象づけられないどころか、その教科に対して嫌悪を抱くほど。

昔の塾や道場というのは、すぐに教えるようなことはせず、むしろ教えるのを拒んで、例えば、剣の修行をしたいと思っている若者に薪割りや水くみをさせたりしていたらしいのです。当然、不満を抱きます。これが学習意欲を高めるために非常に効果的であることを、昔の教育者は心得ていたらしく。あえて教え惜しみをするのだそうで。それによって早く知りたい!という気持ちが強くなる。

考えてみると、確かにその通りです。聞くだけの授業はそもそも興味がわきません。だから眠くなる人が続出するのです。一人や二人寝ているのは、生徒の責任ですが、多数が眠くなる授業は、確実に教える側に責任があります。

つまらない映画のそれと同じで、見ていると眠くなる。見終わっても何も残らない。時間の無駄。こういう経験を誰もが一度はされたはず。

『奇跡の教室』はまさに奇跡。教えるのではなく、考えさせる。興味と知識欲を最大限まで湧かせる。200ページ?ほどしかない短い小説「銀の匙」だけで3年間も国語を教えたこの先生には感動です。


以下本文から抜粋
『なんとなくわかったで済まさない。』
『個性を大事に。その先に議論がある。』
『時間と手間をかけてじっくりと育てていけば、個性豊かな実りになる。』
『一人の職人による原酒は、作り手以外、だれの味見も、検査もなく、水や氷で割られることもなく、直接飲み手に供されるのである。』



 手間と時間をたっぷりかけることこそ、一番の贅沢な教育であると確信しました。国語がすべての学問の基礎になることは忘れたくありません。

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

  • 作者: 外山 滋比古
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1986/04/24
  • メディア: 文庫
    奇跡の教室 (小学館文庫)

    奇跡の教室 (小学館文庫)

    • 作者: 伊藤 氏貴
    • 出版社/メーカー: 小学館
    • 発売日: 2012/10/16
    • メディア: 文庫
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昭和の傑作「氷点」の魅力 三浦綾子 [本 レビュー]

こちらの本、読書の楽しみを一番最初に教えてくれた本でもあります。この本によって読書にハマりました。以来、著者の三浦綾子さんのファンになり、数十冊と読んできましたがどれもすばらしいです。希望を与えてくれます。生き方を考えさせられます。これから紹介していく本も三浦さんの著作が多くなるかも?

「氷点」はいわずもがな、昭和の大ベストセラーです。昭和生まれでご存じない方はいないはず?あの1千万円懸賞小説入賞作品で、著者の処女作でもあります。著者は旭川の方で、本の舞台も旭川。私はこの小説の舞台である、旭川の「見本林」には幾度も訪れております。そこには三浦綾子記念文学館もありますので是非。

さて、本の内容としては、かなりドロドロとしております。一歩踏み外せば昼ドラになりかねません。「この泥棒猫!」という台詞が出てきそうな感じ。そして、登場人物の設定が極端で、現実的ではない部分もあります。

通常であれば、こんな設定であれば単なる”大衆文学”で片付けられ、年月とともに風化して忘れられるのが普通です。ではなぜこの本が出版後年月が経っても読み継がれているのか。なぜ単なる大衆文学で終わらないのか。

私は考えます。著者の小説に込められた想いが確実に読者に伝わっているからだと。作者の必死な信仰を通しての想いは、「氷点」に限らず、どの著作からでも感じ取れます。読者を強くひきこむ文章は、単に文章力のみでは成り立ちません。この”想い”があってこその文章だと思うのです。

「氷点」には『原罪』というテーマが込められております。原罪とは生まれながらに持つ罪のことを言います。生まれてきたことに対する罪悪感を主人公は感じるのです。それも残酷な形で。

『原罪』を如実に表現するために、主人公は極端に設定されております。
「清廉潔白で非の打ち所のない少女」

そして母のこの上ない憎しみ。

この対比で実に巧妙に『原罪』が表現されているわけです。ネタバレはしたくないのであまり突っ込みませんが、とにかく一言一言に重みがあります。
復讐 憎しみ 罪  とちょっとドロドロしていますが、いろいろと考えさせられる作品です。ページをめくる手も止まらないことでしょう。

私の中で決して忘れることの出来ないこの傑作を一人でも多くの方に読んでいただきたく紹介いたしました。

氷点(上) (角川文庫)

氷点(上) (角川文庫)

  • 作者: 三浦 綾子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/06/22
  • メディア: 文庫
氷点(下) (角川文庫)

氷点(下) (角川文庫)

  • 作者: 三浦 綾子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/06/22
  • メディア: 文庫

 

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野良犬トビーの愛すべき転生 全米が泣いた!ベストセラー [本 レビュー]

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兄弟姉妹に囲まれ、野良犬としてこの世に生を受けた僕。驚くことに生まれ変わり、少年イーサンの家に引き取られ、ベイリーと名づけられる。イーサンと喜びも悲しみも分かち合って成長した僕は、歳を取り幸福な生涯を閉じる。ところが、目覚めると、今度はメスのエリーになっていた! 警察犬として厳しい訓練を受け、遭難した少年の救助に命がけで向かうが……。全米ベストセラー。」 

 

 

すばらしい一冊でした。その名の通り、犬が生まれ変わるお話。犬の一人称です。以下ネタバレのなるべくないように書きます。

野良犬のトビーが3回生まれ変わって、自分の生きる目的を探っていくお話。犬の一人称でとてもおもしろい内容でした。そしてその描写される犬の気持ちが恐ろしいほどリアル過ぎて、自分の愛犬に対する意識が変わるほどでした。

犬は敏感に飼い主からの愛を感じ取るもの。愛がなければ悲しむし、酷く孤独を味わう。あれば飼い主を喜ばせながら自分も喜んで幸せな気持ちになれる。そしてその記憶が消えることはない。たとえ生まれ変わっても。

現代は自分の犬を捨てるような勝手な飼い主も存在します。それはおかしいほど自己中心的で冷酷な人間で、愛のかけらも持ち得ない人間でしょう。本書でもちょっとそういう場面が登場しましたが、このことで愛犬に対してもっと愛情を注いであげねば、と強く思ったのでした。

今飼っている自分の愛犬に対する”愛”。深く考えさせれれました。この本で登場する犬が感じ取ったように自分の愛犬も愛を感じ取ってほしい。そして去年死んだ愛犬にもそれが伝わっていたらいいな、と思いました。

本書の感動を無駄にしないためにも、これから積極的にかわいがってあげたくおもいます。

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野良犬トビーの愛すべき転生 (新潮文庫)

野良犬トビーの愛すべき転生 (新潮文庫)

  • 作者: W.ブルース キャメロン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/06/27
  • メディア: 文庫

 


弱い者をいじめるべし  不道徳教育講座 三島由紀夫著 [本 レビュー]

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またも登場する「不道徳教育講座」(私の座右の書です)

「弱い者をいじめるべし」の項から抜粋。久々に読んで笑ってしまった。
以下本文より(割愛あり)

強者の弱者に対する態度は、生物界には一つしかないのです。それが「弱肉強食」であり、もっと上品な言い方をすれば「弱い者いじめ」であります。

諸君の友達に一人、自殺志望者がいるとします。彼が或る日、青い顔をして、フラリと君をたずねて来ます。

  「何だ。また自殺の話か。」

('A`)「そうなんだ。僕はもうこの過酷な生に耐えられない。

  「バカヤロウ。死ぬなら早く死んでしまえ」

('A`)「そう簡単に死ねればこんなに悩まないんだが」

  「死んじまえ。死んじまえ。何なら、僕の前で毒でも呑んでみないか。僕はまだ、服毒自殺って言うのを、見たことないから、ここで一杯やりながら、ゆっくり見物するよ」

('A`)「君なんかに僕の気持ちはわからんよ」
  
  「わからん奴のところへどうして来るんだ」

そのうちに君は、こいつが、ひたすらいじめてもらいたくて、君のところへ姿を現すのに気が付きます。そこで頬桁の一つもパンと張ってやって、

  「貴様みたいな閑人と付き合うヒマはねえや。出てゆけ。もう二度と来るな。」
と追い出してやります。でも大丈夫。死ぬ死ぬというやつで、本当に死ぬのはめったにいない。彼は命拾いをし、君は弱い者いじめの楽しみを味わい、両方の得になる。
 しかし、こういう場面になるとわれわれはなかなか颯爽とは行かず、下手に同情して相手の自惚れを刺激し、己惚れた挙げ句に彼は本当に自殺し、君は後味のわるい思いをするという、両方の損になる場合が多い。

 しじゅうメソメソしている男がある。しょっちゅう失恋して、またその愚痴をほうぼうへふりまき、何となく伏し目がちで、何かといえばキザなセリフを吐き、冗談を言っても何処か陰気で、「僕はどうも気が弱くて」とすぐ同情を惹きたがり、自分をダメな人間と思っているくせに妙な女々しいプライドを持ち悲しい映画を見ればすぐ泣き、昔の悲しい思い出話を何度も繰り返し、ヤキモチやきのくせに善意の権化みたいに振る舞い、いじらしいほど世話好きで・・・
こういうタイプの弱い男は、一人は必ず、諸君の周辺にいるでしょう。こういう男をいじめるのこそ、人生最大の楽しみの一つです。

  「ヘン、また失恋しやがった。いい気味だ。」

('A`)「そんなにいじめるなよ」

  「何だ。その釦穴にくっつけてる鼻糞みたいなものは」

('A`)「彼女が去年くれたスミレの花だよ」

  「バカバカしい。そんなもの捨てちまえ。胸くそのわるい。」

と君はそのスミレの花をむしりとって、地べたに投げ捨てて、ツバを引っかけてやる。

('A`)「アッ、何をするんだ」

  「口惜しかったら俺を殴ってこい。」

('A`)「なぐるなんてそんな。君が友情で、そんなことをしたのが、僕にはわかっているんだもの。僕を思い出から自由にしようと思って、花を踏んづけてくれたんだな。ありがとう。」

  「何を、このバカヤロー。ふざけたことを言うな。」

いじめているのに、友情などと誤解されては迷惑至極ですから、君は即座に拳を固めて彼を殴ります。

('A`)「アッ、いたた」

  「もう一つポカリ」

('A`)「アッ、いたた。・・・(泣きながら)でもありがとう。」

  「なぐられてお礼を言う奴があるか、阿呆」

('A`)「いや、僕にはわかるんだよ。君の友情の鉄拳が。 僕をキッパリ立ち直らせようと思って、心では泣きながら、僕を殴ってくれたんだな。その気持ちわかるんだよ。僕も何とか立ち直らなくちゃいけないと思うんだけど」

君はもうすっかりムシャクシャして、気持ちが悪くなるが、弱い者いじめの快感には替えられない。しかし、もう殴っても無駄ですから、今度は言葉でいじめます。

 「お前みたいなヒョーロク玉は、何度女に惚れたって、フラれるのが関の山だよ。鏡でも見て良く研究しろよ。しょっちゅう泣きっ面をして、カラッとした顔をしていたためしがない。せめて金でもあればいいが、安月給で昼飯はラーメンばっかり喰ってるくせに。それに何だい、インテリ面して、読めもしないくせに、原書なんか抱えて歩いて。週刊誌のほうがよっぽど気がきいてらァ。お前みたいな人間のカスは、早くガス管でもくわえてお陀仏したほうが世のため人のためだよ」

('A`)「でもねえ。それほど言われても、まだあきらめられないところを見ると、あれは本当の恋だったんだねえ。」

 皆さん、この勝負はどちらの勝ちでしょうか。
 
不道徳教育講座 (角川文庫)

不道徳教育講座 (角川文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1967/11
  • メディア: 文庫


病めるときも レビュー [本 レビュー]

 
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本書は6つの短編で構成されており、愛と信仰をテーマとした作者の性質上のためか、ほとんどか恋愛に関する内容でした。ただの娯楽性の高い恋愛小説に終わらない点がこの作者の良いところであります。(本書も例外ではありません)

ではいつもどおり紹介していきたく存じます。その適当さ、おおざっぱなところもいつも通りです(笑)

六つの短編と申しました。
『井戸』
『足』
『羽音』
『奈落の声』
『どす黝き流れの中より』
『病めるときも』

―つーつにちょっとしたコメントを入れつつ、紹介していきます。

まずは『井戸』
主人公は、加代に夫がいながらも3人もの恋人をつくり、しかも目の前でその浮気の様子を見せつけられ、憤慨する。それなのに、家庭は実に幸せ、子供からも慕われ、夫とも仲がよい。不思議な加代たちに呆れつつも驚く。
加代は
「何のかんのと言っても、男と女なんて肉体的に満足すれば良いんだもの」と言います。
恐らくこの作品では、肉体的満足のみに執着することで、自他を傷つけていることにさえ気づけていない罪深さについて描かれているのでありましょう。



『足』
これは実に印象的な作品でありました。
主人公は脊椎カリエスを患い、ギプスペットに臥ており、寝返りも打てない、首も動かせないという状態で、食事をするにも部屋の様子をみるのにも、隣の患者と話すのにも、手鏡を使わなけれはならない。つまり、作者自身の体験を元にしているのかと存じます。
病室を共にする少女が、結核で10にもならぬうちから学校にも通えず、両親には捨てられ、病院での生活を続けていたのでありました。そのため性に関する知識も、外のこともなにもわからない状態で成長してしまったのです。この少女のセリフのーつーつが表面上は陽気であるものの、なんというか寂寞に満ちていると言いますか、とにかく淋しいのです。
たとえば「だってね。霧子は魔法つかいにおまじないをかけられたから、大きくなれないんだって、うちのおかあさんがいったの」

やがて成長するにつれ、病院から抜け出し、どこぞの男と逢瀬を続けるようになる。
その男というのが、同し病院に入院する、かつての教師だったのです。彼はそうした知識に疎い彼女を翻弄し、主人公は幾度も幾度も忠告しましたが、霧子はすっかり夢中になっちゃって、逢瀬を続けるのです。
「この足か悪いんだ」と彼女は足のせいにし、それでも諦められないのでした。
この作品では人間のよわさ、人間に潜む魔の存在、制御できない誘惑といった、嘆きの声が表現されておりました。


『羽音』
とくに良かったと思ったのがこの作品かと存じます。 陳腐な恋愛小説とは違って、しっかりとした、確乎たるテーマがあります。言葉のひとつひとつが迫ってくるようで、楽しめました。

「わたくしは、とにかく一人の女性をおしのけ、不幸に陥れてまで幸福になりたいとは思いません。それとも課長さんは、そんな女性がお好きなのでしょうか。もし、そんな女性がお好きなあなたなら、わたくしは、そんなお方は嫌いです。」

妻子ある課長に恋をしてしまった女性がそう言って会社を辞めるのです。

「とにかく、わたくしはこれ以上、課長さんに近づいてはならないと思っています。今のうちなら、わたくしは去っていくことが出来るでしょう。たとえ、どんなに悲しくても、淋しくても」
なんと立派で勇気ある決断でしょうか。なんとつつましやかで聡明な女性でしょうか。


『奈落の声』
ひねくれものの父親をもつ主人公と心優しい先生のお話です。父親は誰にでもけんか腰で、真樹子先生にもイチイチ難癖をつける、腹立たしい役柄です。
母親に家出された少年の孤独と悲しみが序盤で描かれておりますが、それ故に真樹子先生への厚い信頼が芽生えたのかと。
だからこそ、最後に父親と対立した真樹子先生のセリフに酷い衝撃を受け、傷ついてしまったのでしょう。自分を温かく見守ってくれる母親が欲しいという、求めがそこにはありました。
「生意気でけっこう。あなたみたいなやくざに育てられたら、どんな事件でも起こしたくなるわ。泥棒だって人殺しだって。」
少年はこの「泥棒、人殺し」という先生の言葉についには絶望したのでした。


『どす黝き流れの中より』
文章がいきなり告白体になります。それだけでデカダン臭を感じる私は、耽美文学の読み過ぎでしょうか。内容も退廃的だから、チガウかな?
金と情欲に狂った人間の醜い話です。それにしても、嫂と浮気した夫を、それでも尚ずっと密かに愛し続けてきた津由子があんな結末になり可愛そうでなりませんでした。

『病めるときも』
結婚式で牧師に聞かれた「病めるときも健やかなるときも汝、夫を愛せるか」
神のまえで主人公は、誓ったのであります。愛すると。
病気の夫も、健康な夫も変わらずに愛し続けることの難しさ、でもそれが当然だという真理。結婚をただの形式的な誓いとは捉えずに、人間と人間との強い精神的な結びつきであると、作者にはそう言う考えが深く根付いておりまして、どんな目にあっても、どんなことがあっても、夫婦というのはそう簡単に離れてはならないものだという作者の強い訴えを感じました。
 
病めるときも (角川文庫)

病めるときも (角川文庫)

  • 作者: 三浦 綾子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/05/25
  • メディア: 文庫
 

思考の整理学でおなじみ外山教授の「日本語の作法」 [本 レビュー]


『日本語の作法』

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乱れた敬語を著者は嘆いています。とくに、目から鱗が落ちたのが、「ください」の使い方。
くださいというのはそもそも命令形であって、目上の人には使えない。対等の間柄でも強すぎることがあるらしい。
例えば車内アナウンス

「ご注意ください」いかにも子供扱いされた感じです。

「足下があぶのうございます。」「ご注意ねがいます。」が本来あるべき敬語の姿らしい。
確かに、「お乗り換えください」と言われるより、「お乗り換えです」といった方が柔らかくスッキリしています。
「お待ちください」より「お待ちいただけますか」のほうが落ち着きます。

現代は柔らかい言い回しが好まれるようで。日本語的にも、礼儀的にも、大切なことだと思いました。

ご覧の通りなかなか興味深い内容です。他にも一つ紹介しましょう。例えば、病院で患者のことを、「患者様」と呼ぶことが増えてきていること。これについて述べられています。
そもそも一般の名詞に様をつけること自体、日本語としておかしく(人の名前は例外)、もしどうしてもつけたいのであれば、”お”か”ご”をつける必要がある。
例えばお客様であったり、ご依頼人様であったり・・・でも、お患者様とかご患者様じゃ具合が悪い。

このように、普段、無意識に使ってしまっている、日本語の誤りを、この本では実にわかりやすく説明・指摘してくれています。まさに目からウロコです。オススメ!
 
 
それともう一つ。最も共感したこと「○○さんはおりますか」という明らかにおかしすぎる日本語。いらっしゃいますか、ならわかるけど・・・よく耳にするからフンガイします。
日本語の作法 (新潮文庫)

日本語の作法 (新潮文庫)

  • 作者: 外山 滋比古
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/04/24
  • メディア: 文庫
 
 
 

やっと手に入れた!「文章読本」 丸谷才一著 [本 レビュー]

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実習で文庫の品出しをしていて、ふと見つけた御本。丸谷才一著「文章読本」前から欲しかったもので、谷崎と三島のそれは読んだのだが、丸谷才一のは未読だった。そこで早速昼休みに購入、10ページほど読んでみた。やはり、さすが谷崎の「文章讀本」は傑作中の傑作で、これに勝るものはないらしく、丸谷才一も絶賛している

「これは格段に力のこもつた傑作なのである。」

「名人藝の講義である。」


「彼をしのぐ者は、学者のなかにすら極めてすくなかつたとわたしは思ふ。」

「『文章讀本』は依然として偉大である」

「彼ほどの大才、彼ほどの教養と思考力の持ち主が、初学案内の書にときとして浅見と謬想とを書きつけざるを得ないくらゐ切迫した状況で現代日本語といふ課題に全面的に立ち向かつたこと、その壮大な悲劇性こそ『文章讀本』の威厳と魅惑の最大の理由であった。」

だが、絶賛しつつも批判しているようすがまたおもしろく、

「さういふ彼でさへ奇妙な思ひ違ひをしてしまふくらゐ、現代日本語で文章を書くといふことについて論ずるのはむづかしい。」

「谷崎の最大のあやまちは、眼目である第二章「文章の上達法」の劈頭に見ることができる。『文法的に正確なのが、必ずしも名文ではない、だから、文法には囚はれるな』と彼はまづ強調するのだが、不思議なことに彼の言ふ文法とは国文法、すなはち日本語の文法のことではない。」

まだまだ途中だが、なかなかおもしろそうな内容を含んだ本だと思う。谷崎の文章讀本は大分昔に読み、感動・共感し、かなりの勉強になった。丸谷才一の言うとおり傑作の一言に尽きた。この本の右に出るものは絶対にナイと信じて疑わないが、丸谷の客観的批判が気に入ったので、ジックリ読みたい。
ちなみに丸谷才一も述べてい、私もそう思うこと。三島由紀夫の『文章読本』はイマイチ。物足りないというか、何も残らなかった。
 
 
 
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外山滋比古 思考の整理学 東大・京大で1番売れた本!!! [本 レビュー]

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  本書は学校教育の問題点について述べています。

本文の問題提起の部分を自分の感想を交えて要約してみました。

 

 

今の学校は何でもかんでも親切すぎて、教えることに熱心すぎて、逆に教わる側が口を開けていれば欲しいモノを与えてくれるという、受け身の姿勢になっているんだと思います。はじめから、意味を押しつけてしまって、好奇心を働かせる前に教えてしまっている。 

昔の漢文の授業なんかは、意味を教えなかったらしいです。わざと素読だけさせて、チンプンカンプンにさせる。生徒に早く意味をわかるようになりたい、と思う心を募らせる。教えないことが却って良い教育になっている例であります。

学校では先生に従順であることが尊重されて、少しでも外れた者がいたら、問題有りとチェックされ、とにもかくにも、教科書と先生にだけ引っ張られて、独力で学ぶことは全く無いのです。知識だけたっぷりあって実践の出来ない、論語読みの論語知らずだらけにさせているのも、学校教育が親切丁寧積極的でありすぎる弊害なのであります。 

 

学校というのが手取り足取り、至れり尽くせりのお世話をしすぎて、逆に生徒のやる気を喪失させている問題。 結果つまらない授業で終わってしまうのです。この問題についてどのように思考を整理し、どのような姿勢で臨んでいけばいいのか、本書では書かれています。

「メモを取ったという安心感が却って忘却を促進させる。」

 メモを取れ取れとひたすら学校で言われていますが、この言葉は 痛快でした。おすすめの本です!!

 

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安部公房 未発表作品 「天使」 [本 レビュー]

安部公房氏の未発表作品が札幌の実弟宅で見つかったそうです。

なぜいまさらでてくるんだ・・・というのが正直な感想ですが。それに、弟が札幌に住んでいると言うこと、こちらの方が衝撃でした(笑)

安部公房の作品については、「壁」とか、「砂の女」等をいろいろと読んで来ましたが、大好きです。天使も書籍化されれば読んでみたいものです。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/121107/art12110714150005-n1.htm 


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