遠藤周作死後、半世紀を経て見つかった幻の書 レビュー [本 レビュー]
本日は遠藤周作の
「十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。」
という御本を紹介致します。
Amazonの詳細は以下の通り。
「好きと打ち明けたい。デートに誘いたい。病気の人を見舞いたい。身内を亡くした人にお悔やみを伝えたい。そんな時、どうしたら自分の気持ちを率直に伝えて、相手の心を動かす手紙を書くことができるのか――。大作家が、多くの例文を挙げて説き明かす「心に届く」手紙の秘訣は、メールを書く時にもきっと役立つ。執筆より半世紀を経て発見され世を瞠目させた幻の原稿、待望の文庫化。 」
作者の死後50年経って見つかった原稿がこの本だそうです。それにしても惹きつけられるタイトルですね。
本書は手紙の指南書。昨今では手紙を書く機会がほとんどなくなってしまいましたが、メールでも十分使えます。遠藤周作は重たく難しい話と、ユーモアを交えた軽妙な話とで、同じ作家なのに本によってまったく内容が異なってきます。本書は後者で、笑える要素もあり、楽しく読むことができます。
この本では”人の心をつかむ文章の書き方”が説明されております。
十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。 (新潮文庫)
- 作者: 遠藤 周作
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/08/28
- メディア: 文庫
最高傑作 谷崎潤一郎 細雪 レビュー [本 レビュー]
本書の会話文は船場言 葉。大阪弁?の一種です。4姉妹が登場します。三女の雪子が、美人なのに引っ込み思案で、しかもグダグダと日本の良家独特のしきたりで、相手のことを調べ 尽くしてチョットでも難点があったら没にしたりと、なかなか縁談が決まらないという話しがしばらく続きます。そういう日本のしきたりを引きずるのは現代か ら見れば馬鹿馬鹿しいですね。
こういう封建的な生活を知らない私は、現代からは隔世の感のある戦前の上流階級文化が新鮮だからというだけでなく、優美な世界に没頭できる筆致が心地よく、贅沢な時間を過ごせました。
豪華絢爛と呼ぶにふさわしいのは、伝統行事の描写であります。花見、螢狩り、月見を楽しむ姉妹達。わけても京都嵐山における花見の描写は美しすぎて圧倒されます。まるでその場で自分も花見をしているかのようです。頭の中に京都の桜が次々に咲いて巡ります。
そして、この小説をよりいっそう美しくしているのは、船場言葉で会話されているからでしょう。これがもし標準語の小説であったら、その魅力は半減どころか全くなくなってしまいます。
例えば今ちょうど開いたページの台詞はこんな感じ。
「お久どんやったら黙っていたかて、御飯のお数なんかちゃんと自分で考えて拵えるのんに、あの娘は六年も奉公してながら、いまだにあたしがこないこないせ え云わなんだら、何一つよう拵えへん。御飯時にお腹空かして帰ってきて、何ぞしといてくれたかいな云うと、いいえまだでございます云うねんもん」
黒髪の乙女に憧れ、手に取った一冊 夜は短し歩けよ乙女 レビュー [本 レビュー]
人気作品ですね。山本周五郎賞受賞、本屋大賞2位の傑作でございます。
『「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づ かない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山 本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。』
何が良いってとにかく黒髪の乙女が最高です。先輩は必死で追いかけるのに、黒髪の乙女は常にマイペース。先輩になんて全く気づかない。
そしてこのまじめくさった文体のくせに、内容はかなりふざけているギャップが実におもしろく。始終愉快です。
何もかもが珍事件。パンツ総番長とか出てきます(ノω`*)
アマゾンのレビュー数はすごいことになっています。この人気作品を是非!
若きサムライのために レビュー 三島由紀夫 [本 レビュー]
『若者よ、高貴なる野蛮人たれ!平和ボケと現状否定を厳しく排し、日本を問い、文化を問い、生き方を問う、毒と先見に満ちた煽動書』
三島は今から50年以上も前に生きていたのに、まるで現在の日本を知っていたかのようです。三島のエッセイはどれも痛快。読んでいて楽しい。
日本を馬鹿にする日本人がいる。しかし食べているものはお米。そんな中途半端な日本人になるのではなく、ハンバーガーをかぶりつきながら日本を誇りと思ってくれる人がいいというのには共感。
前半は若者への叱咤激励。嗜みというものを教えてくれます。後半は一気に難しくなり、天皇論、憲法、自衛隊等が出てきます。対談もなかなかおもしろかった。
福田赳夫氏の、核の抑止力は当分持てないと言う発言を深読みすると、日本もそのうち核を持つんだと、言う意味にとれる。
「東大を動物園にしろ」の章はあの学生運動に対する皮肉で、かなり挑発的。
砕けた文体でそこまで難しくはないのでぜひ!
海にもサメにも負けない力強い老人!ヘミングウェイ 老人と海 レビュー [本 レビュー]
本日は外国の小説を紹介します。ヘミングウェイの「老人と海」
ヘミングウェイはノーベル文学賞受賞作家です。150ページほどの短い小説ですが、内容はひじょーうに濃い。老人と一緒に読者も海に圧倒されるはず。
Amazon詳細からのあらすじ。
『キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。4日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、舟にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく……。徹底した外面描写を用い、大魚を相手に雄々しく闘う老人の姿を通して自然の厳粛さと人間の勇気を謳う名作。』
冒険的な物語。海にもサメにも負けない、力強い老人。終いには5メートルを超える「カジキマグロ」と死闘を繰り返し、釣り上げる。
深い深い心理描写。老人の最後まで諦めない強さ。とにかく強さが描かれています。
背景描写と言い、心理描写と言いすべてが綿密。それをこんなに少ないページ数で成し遂げられるのはさすがノーベル文学賞作家。訳文は決して読みにくいと言うことはないけどちょっと変だなぁと感じたところもありました。気にするほどのことではありません。
この名作をぜひ!
自らの体を下敷きにして、列車を止めた男。 塩狩峠 レビュー [本 レビュー]
本日紹介する本は「塩狩峠」です。塩狩峠には私も一度行ったことがありますが、なにもないところです(笑)でもそこで起きたことはとんでもないことでした。
名作なのでご存じの方も多いはず。
あらすじをAmazon詳細よりまたも抜粋。
「結納のため、札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車は、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れて暴走し始めた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた……。明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らを犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、生きることの意味を問う長編小説。」
列車から飛び降り、下敷きになって、自らの体をブレーキにして乗客を救った、という部分だけ実話です。そこに至るまでのストーリーはフィクションですが、美しい話です。ラストは泣けました。
なんと痛ましい話なのだろう。実在したという主人公のモデルは、この小説の主人公よりももっと聖人君主たる人物だったらしく。自己を犠牲にしてまで人々を救うだけの勇気と決意と愛を持ち得る人間が本当に存在したとは驚きです。
愛する人も、大切な家族も、すべてを流してしまう恐ろしき津波 人生の試練とは?泥流地帯 レビュー [本 レビュー]
こちら傑作です。あらすじはアマゾンの詳細より抜粋。
「大正15年5月、十勝岳大噴火。突然の火山爆発で、家も学校も恋も夢も泥流が一気に押し流してゆく……。上富良野の市街からさらに一里以上も奥に入った
日進部落で、貧しさにも親の不在にも耐えて明るく誠実に生きている拓一、耕作兄弟の上にも、泥流は容赦なく襲いかかる。真面目に生きても無意味なのか?
懸命に生きる彼らの姿を通して、人生の試練の意味を問いかける感動の長編。」
十勝岳噴火による山津波があったことは事実です。それを元に書かれた作品でございます。恐ろしいですね。火山噴火の熱で雪が融け、その溶けた水が襲ってくるとは。
矛盾だらけの世の中、苦難や恐怖だらけの世の中、そして一瞬にして家族も、友人も、家も、すべて流してしまう津波の恐ろしさ。この時代は今とは比べものにならないくらい貧しい世の中でした。そんな貧しさの中でもそこに生きる人達は真面目に働く、美しい立派な人間でした。
そんな懸命に誠実に生きる人達に無惨に襲いかかる泥流。泣ける話です。そこから必死に前だけを見つめて、たとえそれが自分にとって損になることでも、たとえ報われなくても、懸命に復興しようとするまじめな姿。感動しました。
まさにこれは人生を描いており、文字通り、津波を描いております。人生は絶えず苦悩や試練を人間に与えます。これをどうやってまじめに、まっすぐに、正直に乗り越えていくか。登場人物達の姿勢を我々も習うべきだと思いました。主人公の拓一は本当に素晴らしかった。
未曾有の脱獄事件。4度も脱獄した犯人の超人的な手口とは?吉村昭 破獄 レビュー [本 レビュー]
本日は吉村昭の「破獄」について紹介いたします。こちら私の中で非常に印象深い作品で、読後1年以上が経過する今でも、読後の衝撃が残っております。まずはどんな作品か、Amazonの商品詳細からの抜粋です(またも手抜き)
「昭和11年青森刑務所脱獄。昭和17年秋田刑務所脱獄。昭和19年網走刑務所脱獄。昭和23年札幌刑務所脱獄。犯罪史上未曽有の4度の脱獄を実行した無
期刑囚佐久間清太郎。その緻密な計画と大胆な行動力、超人的ともいえる手口を、戦中・戦後の混乱した時代背景に重ねて入念に追跡し、獄房で厳重な監視を受ける彼と、彼を閉じこめた男たちの息詰る闘いを描破した力編。読売文学賞受賞作。」
まさにプリズンブレイク。白鳥由栄をモデルにした作品で、ほぼノンフィクションです。それにしても4度も脱獄するとは天才です。脱獄はそれぞれ意表をつく
ものばかり。驚かされます。袋のネズミにされても華麗に逃走してしまうのです。あの網走刑務所もしっかり登場しております。網走刑務所と言えば観光地とし
て有名ですが、私も一度訪れたことがあり、読み進めるうえで場面を想像しやすかった。で、当時の北海道の寒さは今のそれを凌ぎ、暖房も粗末でしたから(刑
務所の場合)刑務所内で凍死することは当たり前。網走刑務所は食糧に恵まれていましたから飢え死にすることはなかったのですが、他の刑務所は飢え死にが頻
繁に起こっていたそうで。そんな過酷な状況下の描写が実に巧い。素っ気無く、淡々とした飾り気のない文体がこの上ないリアリティを醸し出します。
物語は戦前から戦後の時代背景とともに進みます。刑務所という特殊な舞台の中で繰り広げられる人間模様を描いた物語だと感じました。
残酷な人体実験が実際に行われていた 海と毒薬 [本 レビュー]
かなり昔に読んだ作品なので紹介文を書くのが大変ですが、本日は遠藤周作の「海と毒薬」を紹介致します。まずはどんなあらすじか。アマゾンの商品説明からの抜粋です(手抜き)
「戦争末期の恐るべき出来事――九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化、著者の念頭から絶えて離れることのない問い「日本人とはいかなる人間か」を追究する。解剖に参加した者は単なる異常者だったのか? どんな倫理的真空がこのような残虐行為に駆りたてたのか? 神なき日本人の“罪の意識"の不在の無気味さを描き、今なお背筋を凍らせる問題作。」
まさに”背筋を凍らせる問題作”でした。目を背けたくなるような事件。残酷な人体実験が実際にされていたとは。先日紹介した蟹工船の時代も然り、特に戦時中は酷い時代で、今がどれだけ幸せかがわかります。
権威体制、権力闘争の集団心理下における医師達の地位争いはあまりに残酷で、命よりも自分の地位を選ぶ、醜悪な人間の姿が表現されておりました。戦時中の極限状態になると誰もがこのように恐ろしく豹変してしまうのでしょうか・・・。
信仰を持たない日本人の罪の意識。それを考えさせられた作品でした。
・罰を恐れるが罪を恐れない。
・罰がある故に罪悪感がある。
・日本人の罪と罰の意識とは世間や社会の反応によって変わる
罪と罰。
これは人間の永久的な大問題であり、解決の余地はないといって過言ではありません。あまりに残酷で読むのが辛いかもしれません。ですが、一人の日本人としてきちんと向き合うべきです。